今回は高血糖についてです。
血糖値のコントロールの仕組みもあわせて確認しましょう。
高血糖とは
高血糖とは、血液中に含まれる糖質が増えすぎ、正常値を超えてしまう状態を言います。
食事をした後は、食物中のブドウ糖が消化管から吸収されるので、誰でも血糖値が上がります。
そのため、血糖値が正常かどうかをみるための検査は、空腹時に行います。正常な血糖値は、空腹時で60〜110mg/dLで、110mg/dLを超えると高血糖とみなします。
血糖値はどのように調節されているのか
食後に増加した血糖値が時間とともに低下するのは、血糖値の上昇に対してインスリンが分泌されるためです。
インスリンは、細胞が血液中のブドウ糖を取り込むのを促進します。
また、肝臓や筋肉に対してはブドウ糖からグリコーゲンへの合成を促進したり、蛋白質からのブドウ糖合成を抑えたりします。
これらの作用を通じてインスリンは血糖値を低下させます。
反対に、血糖値を上昇させる作用を持つホルモンには、グルカゴン、コルチゾール(糖質コルチコイド)、アドレナリン、成長ホルモンがあります。
これらのホルモンは、肝臓や筋肉に蓄えてあったグリコーゲンや蛋白からブドウ糖を産生したり、インスリンの作用を抑えたり、腸管からの糖の吸収を増加させたりして血糖値を上昇させます。
血糖値の上昇と疾患の関係は?
血糖値の上昇と疾患の関係でいちばん問題になるのは、糖尿病です。
インスリン分泌量が絶対的に不足していることが原因で起こる糖尿病を1型糖尿病、インスリンの分泌量は必ずしも不足していないのに、その働きが低下することが原因で起こる糖尿病を2型糖尿病といいます。
現在、日本には多くの糖尿病患者がいるとされていますが、その大部分は2型糖尿病です。
2型糖尿病は、遺伝的に糖尿病になりやすい人に、過食や肥満などの生活習慣が加わることによって発症することが知られています。
肥満ではインスリンの分泌量が足りていても、その作用が十分に現れず、高血糖になりやすくなります。
このようにインスリンの効き目が低下することを、インスリン抵抗性といいます。
日本人は、欧米人と比べて遺伝的にインスリンの量が少なく、それほど太っていなくても糖尿病を発症しやすいので、注意が必要です。
インスリンの抵抗性
インスリンが血糖値を下げる働きをするためには、細胞のインスリン受容体と結合する必要があります。
インスリンとインスリン受容体は、鍵と鍵穴に例えられます。インスリンという鍵が、細胞膜上にあるインスリン受容体という鍵穴に差し込まれると、その情報がブドウ糖を細胞内に取り込む扉に伝わって扉が開き、細胞の中にブドウ糖が入っていけるのです。
この扉は普段は細胞質の中にあって、ブドウ糖を細胞が取り込むためには、細胞の表面に移動する必要があります。
インスリン受容体にインスリンが結合すると、この扉が細胞表面に移動して、ブドウ糖を取り込むことができるのです。
しかし、肥満になると脂肪細胞から血液中に遊離脂肪酸が放出され、これがインスリン受容体に作用して、インスリンが受容体に結合してもブドウ糖を取り込む扉が細胞表面に移動できないようにしてしまいます。
すると、ちゃんとインスリンが分泌されているにもかかわらず、血液中のブドウ糖が細胞内に入っていけず、インスリンが血糖値を下げる役割を果たせなくなるのです。
インスリンの分泌が悪くなる病気
インスリンの分泌が悪くなる病気には、前述した1型糖尿病のほか、膵臓癌や肝疾患があります。
インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞で作られています。先天的な素因を持った人がウイルスに感染すると、ランゲルハンス島に炎症が起きてβ細胞が破壊され、インスリンの分泌が低下します。これが1型糖尿病です。
膵臓癌では、癌によってランゲルハンス島が破壊され、インスリンの分泌が悪くなります。
また、肝硬変などの肝疾患で肝臓の機能が低下すると、ブドウ糖をグリコーゲンとして蓄えることができなくなり、血糖値が高くなります。
糖尿病が引き起こす合併症
糖尿病では、蛋白の糖化によって血管の透過性が変化し、血液中の蛋白が血管外に滲み出すようになり、血管がダメージを受けます。
このような変化は、特に腎臓の糸球体に強く現れます。糸球体は滲み出した蛋白によって次第に硬くなり、機能を失い、糖尿病腎症という状態になります。糸球体の基底膜も障害され、蛋白尿が出現し、人工透析が必要になることもあります。
眼にも影響が出ます。弱くなった眼底毛細血管壁にできた瘤が破裂して眼底出血を起こし、失明につながることもあります。
また糖尿病では、血液中のブドウ糖を取り込めず、エネルギーとして利用できなくなるため、蛋白代謝や脂肪代謝にも影響を及ぼし、血液中のアミノ酸や脂質が増加してアミノ酸血症や脂質異常症が起こります。
脂質異常症は動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高まります。
さらに、末梢神経の知覚が鈍ったり、排尿障害や排便障害を招いたりする糖尿病神経症も、重要な合併症です。
知覚障害によって足先の小さな傷に気づかず放置すると、免疫能が低下しているために傷に感染を起こし、さらに動脈硬化によって血流も悪化しているために広汎な壊死をきたし、いわゆる糖尿病性壊疽が起こる可能性が高くなります。
このほか、高血糖による浸透圧の上昇や、ケトン体の増加によるアシドーシスが、昏睡を招くこともあります。
糖尿病のケア
糖尿病で最も重要なことは、合併症の発症をいかに防ぐかということで、そのためには血糖のコントロールが重要になります。
1型糖尿病のようにインスリンを作るβ細胞が破壊されている場合には、生涯にわたってインスリンを投与する必要があります。
そこで、患者や家族に自己注射の指導を行います。
現在は、インスリンポンプなどの方法もあるので、患者にとって最良の方法が選択できるような情報提供を行います。
2型糖尿病の患者では、生活習慣の改善が重要で、食事療法と運動療法が中心になります。
指示されたカロリーでバランスのよい食事を、1日3回きちんと摂るように指導します。
食後の急激な血糖値の上昇は予後を悪化させるので、ゆっくりよくかんで食べることも大切です。
また、適度な運動によって筋肉を動かし、脂肪を減らすと、インスリンの効きがよくなります。
ただし、動脈硬化による虚血性心疾患などの合併症がある時は、心臓に過度の負担がかからないように気をつけます。
また、糖尿病の患者は、靴ずれなど足の小さな傷が糖尿病性壊疽などにつながるということを忘れてはいけません。
伸びた爪で皮膚を傷つけないようにこまめに爪切りをする、足浴で循環をよくする、皮膚を清潔に保つ、といったケアも大切です。
尿中に糖が排泄される時に水分も排泄されるので、のどが渇き、渇きを潤すために水分を過剰摂取し、多尿になります。
微生物に対する抵抗力も低下しているので、尿路感染症にかかりやすいことから、陰部を清潔に保つことも重要です。
2型糖尿病でも、自己血糖測定やインスリンの自己注射が必要になることがあります。
インスリンは投与量を誤ったりすると低血糖発作を起こして、重大な事故につながる危険がありますので、定期的にきちんと自己注射が行えているか確認したり、低血糖を防ぐための対策、低血糖になった時の対応がとれるように準備しておきましょう。